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千葉地方裁判所 昭和39年(ワ)118号 判決

原告 鈴木うゑる

右訴訟代理人弁護士 佐々野虎一

被告 中村ヨノ

同 大岩正三郎

同 大岩登

右三名訴訟代理人弁護士 室山智保

主文

一、被告三名は合同して原告に対し一四万三、九四〇円およびそれに対する昭和三九年四月一六日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

二、被告中村ヨノ、大岩正三郎は合同して原告に対し二七万三、四九〇円およびそれに対する前同日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

三、被告中村ヨノは原告に対し五万七、五七〇円およびそれに対する前同日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

四、原告のその余の請求を棄却する。

五、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告、その二を被告ら三名の、各負担とする。

六、この判決は、原告が被告中村ヨノに対し七万円、被告大岩正三郎に対し五万円、被告大岩登に対し二万円の各担保を供することにより、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

一、原告訴訟代理人は「被告ら三名は合同して原告に対し二五万円を、被告中村ヨノおよび被告大岩正三郎は合同して原告に対し四七万五、〇〇〇円を、被告中村ヨノは原告に対し一〇万円を、それぞれ右金員に対する昭和三六年一一月一日から支払済まで年六分の割合の金員を付加して支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因を次のとおり述べた。

(一)  昭和三三年三月三一日、被告ら三名は共同して次の約束手形を振出した。

額面金 二五万円

支払期日 昭和三三年四月三〇日

支払地、振出地 船橋市

支払場所 千葉相互銀行船橋支店

名宛人 原告

(二)  昭和三三年三月三一日被告ヨノ、同正三郎は共同して次の約束手形を振出した。

額面金 三〇万円

その他の手形要件 (一)の手形と同じ

(三)  昭和三三年三月三一日被告ヨノ、同正三郎は共同して次の約束手形を振出した。

額面金 一七万五、〇〇〇円

その他の要件 (一)の手形に同じ

(四)  昭和三三年四月一八日被告ヨノは次の約束手形を振出した。

額面金 一〇万円

その他の手形要件 (一)の手形に同じ

(五)  原告はそれら手形を各支払期日に支払場所へ呈示して支払を求めたが、いずれも拒絶され、現に原告が所持している。

(六)  ところで、右各手形について、支払期日後の遅延損害金は一ケ月一分の割合と定められていた。そして被告らは右手形四通に対する支払として、

(1)昭和三五年二月末日 一五万円

(2)昭和三六年一月三〇日 五万円

(3)同年四月一日 五万円

(4)昭和三七年九月四日 五万円

(5)昭和三八年一月二日 五万円

を支払った。右合計三五万円は計算上各手形金に対する昭和三六年一〇月までの前記割合の遅延損害金に充当された。

よって原告は右各手形金とそれに対する昭和三六年一一月一日からの損害金(ただし年六分の割合で)を請求する。なお月一分の割合の損害金の約定が認められないときは年六分の商事法定利率によることを主張する。

(七)  被告の主張(二)、(三)の事実は否認する。

また被告主張(四)の消滅時効は中断されて完成していない。すなわち前記のとおり被告らは昭和三八年一月二日までに五回にわたって各手形金に対する遅延損害金を支払ったところ、その支払は右手形金債務を承認したことになるから、その手形金の消滅時効は右支払の都度中断したわけである。したがって時効はいまだ完成していない。

二、被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

(一)  請求原因事実のうち、被告らが原告主張(一)ないし(四)の約束手形四通を振出したこと(ただしその名宛人に関する部分をのぞく)、被告らが原告主張のとおり三五万円を支払ったこと、は認める。しかし、原告が右各手形を支払のため呈示したことは否認する。

(二)  被告らは原告の夫訴外鈴木禎一郎から金借し、その都度その支払のために振出したのが、本件各手形である。その宛名は、同訴外人が千葉相互銀行船橋支店長をしていて、右貸借に関しその名が表面にでることをはばかったために、同訴外人の希望で白地とし、それは補充しない約束であった。

(三)  原告主張(一)の手形は昭和三三年四月中に支払済である。また同(二)の手形は前記三五万円の支払いによって完済された。右三五万円は原告がいうように本件手形四通の遅延損害金として支払われたものではない。

(四)  原告主張(三)、(四)の約束手形についてはその振出のときから三年経過したときに消滅時効が完成した。被告らは右時効を援用する。

三、証拠〈省略〉

理由

一、被告ヨノ、同正三郎、同登が原告主張(一)の約束手形を、被告ヨノ、同正三郎が原告主張(二)、(三)の約束手形を、被告ヨノが原告主張(四)の約束手形を振出したことは、その各手形の名宛人の部分をのぞいて、当事者間に争いがない。そして名宛人欄をのぞいて成立に争いがなく、名宛人の部分についても証人鈴木禎一郎の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)によって成立が認められる甲第一ないし第四号証、証人鈴木禎一郎の証言原告本人尋問の結果(第一、二回)を綜合すると、被告らは原告の夫鈴木禎一郎を介して原告から金借し、その支払のために本件各手形を振出して原告に交付したものであるが、右振出にあたっていずれも名宛人欄を白地とし、原告に対し名宛人として原告の氏名を補充することを委ね、原告は本件各手形の交付を受けた後右委任にもとずいてその各名宛人欄に原告の氏名を記入して補充したこと、が認められる。被告らは右事実を争い、本件各手形は実質的には訴外鈴木禎一郎に宛てて振出されたものであるが、その名宛人欄は補充しない約定であったと主張し、被告ら各本人尋問の結果(被告ヨノは第一回)のうちには右主張に添う部分があるが、それら供述は前記証拠と対比すると信用しがたく、その他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

次に原告は本件各手形をその支払期日に支払場所へ呈示したが支払を拒絶されたと主張する。しかし、それを認めるに足りる証拠はない。前出甲第一ないし第四号証に不渡の付箋がないこと、証人鈴木禎一郎の証言を併せると、むしろ本件各手形は呈示期間内に呈示されなかったものと推認される。

そうすると、被告らは本訴状が送達された日であることが記録上明らかな昭和三九年四月一五日の翌日一六日から、はじめて本件各手形金について履行遅滞に陥ったことになる。

二、ところで被告らは本件手形のうち原告主張(一)の手形金は昭和三三年四月中に支払ったと主張し、被告ヨノ(第一、二回)、被告登各本人尋問の結果中には右主張に添う供述があるが、それらは証人鈴木禎一郎の証言と対比すると、たやすく信用しがたく、その他に被告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

また被告らは原告主張(二)の約束手形金も支払済であると主張し、原告主張のとおり五回にわたり合計三五万円を被告らが支払ったことは当事者間に争いなく、被告正三郎同ヨノ(第一回)各本人尋問の結果には右三五万円が右(二)の手形金の支払に充てられたとの供述があるが、それら供述は証人鈴木禎一郎、原告本人尋問の結果(第一回)と対比するとたやすく信用しがたく、その他に右主張を認めるに足りる証拠はない。かえって鈴木証人、原告本人の供述によれば右三五万円は本件手形四通に対する支払であることが認められる。

さらに被告らは原告主張(三)、(四)の手形金債務が時効により消滅したと主張する。しかし、右認定のとおり三五万円は本件四通の手形金債務の弁済として支払われたこと、その支払日が原告主張のとおり昭和三五年二月末日から昭和三八年一月二日に及んでいること、から考えて、本件四通の手形金についてはいずれもその支払の都度債務の承認による時効の中断があり、四通ともいまだに消滅時効が完成していないものと解せられる。

右のとおり被告らの抗弁はいずれも理由がない。

三、もっとも原告は前認定のとおり本件各手形金に対し合計三五万円の支払があったことを自認していて、それが昭和三六年一〇月三一日までの遅延損害金に充当されたと主張する。しかし、本件各手形金については昭和三九年四月一五日まで遅延損害金が発生しないことは冒頭に認定したところである。そこで右三五万円は右各手形の額面金額に対する弁済と解されるところ、本件各手形はその支払期日が同一であるので、その弁済については被告らの利益に差異がない。そこで右三五万円は本件各手形金の額に応じ各手形に按分して充当されるべきである。〈省略〉。

四、そこで原告の請求は右各手形金残額とそれらに対する昭和三九年四月一六日からの年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却すべきである。よって、〈以下省略〉。

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